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乳酸菌と免疫

執筆者の写真: impactimpact

更新日:2021年9月21日



               佐賀大学教授 北垣浩志




現在、ウィルスの蔓延により、免疫に注目が集まっています。

免疫はもともと疫を免れるという言葉通り、一旦病気になれば二度目にその病気にかかっても軽く済むという現象で、古代ギリシャのペロポネソス戦史にもその記述があるとおり、古くから人類はその現象を認識していました。しかしそのメカニズムがわかってきたのは、この20年―40年のことです。


腸管は粘膜でできており、そこには免疫細胞も存在しています。特に小腸に多いことがわかっています。乳酸菌が付着すると乳酸菌のLPSや二本鎖RNA、非メチル化CpGアイランドなどに腸管細胞のToll-like receptorが結合し、自然免疫が活性化します。


さらに免疫細胞の一種である樹状細胞が粘膜のすぐ内側に存在しており、腸管に外敵がいないかを監視しています。また一部の乳酸菌は特殊な腸管の細胞であるM細胞を通じて体内に取り込まれ、そこでマクロファージなどの免疫細胞に感知されます(図1)1)。


図1 腸管における乳酸菌と免疫細胞



しかし、ウィルスが付着して侵入するのは上気道や肺胞の細胞です。場所が別なわけです。

それでは乳酸菌を口から食べることが別の場所の器官の感染を防ぐのでしょうか。意外にも、科学研究の蓄積はその可能性を示唆しています。

乳酸菌を含む飲食品を食べたり飲んだりすると急性上気道感染症のリスクを減らしたり、上気道感染症の期間を短期化する効果があるということが、複数の研究をまとめたメタ解析やシステマティックレビューで報告されています2,3)。エビデンスのレベルは低く、まだはっきりとはわからないですが、全身の免疫細胞同士は互いに情報を交換していることを考えると、効果がある可能性はあります(図2)。

さらに、乳酸菌にもいろいろな種類があり、種類によってもその免疫活性化ターゲットは異なります。これらのことから、いろいろな乳酸菌をとることで全身で免疫を上げることができ、他の器官における感染を防ぐことができる可能性はあると考えられます。

図2 乳酸菌と小腸、全身における免疫活性化能に関する仮説



そこで株式会社インパクトとの共同研究により、九州の花や果実から乳酸菌を分離し、実験動物の免疫細胞を使ってその活性化能を調べました。

まず梅の花から乳酸菌を分離し、Enterococcus faecalisとして同定しました(図3)。

図3 梅の花から分離した乳酸菌

この乳酸菌(殺菌したもの)が免疫細胞を活性化することも明らかにしました(図4、NO産生量とは一酸化窒素産生量のことで、免疫活性を表します)。さらに他の同様の菌よりもクエン酸生産性が多いことも明らかにしており、クエン酸による健康効果も期待できます。

加熱殺菌したE. faecalisはヒトの研究で花粉症の症状の抑制効果4)が、動物実験で皮下脂肪蓄積抑制効果5)や免疫活性化6)が報告されており、本研究で分離されたE. faecalisも同様の効果が解明されていくことが期待されます。



図4 梅の花から分離した乳酸菌の免疫活性化能

(異なるアルファベットは統計的に有意差があることを表します)



次に桜の花から乳酸菌を分離し、Leuconostoc mesenteroidesと同定しました(図5)。

図5 桜の花から分離した乳酸菌

この乳酸菌(殺菌したもの)が免疫細胞を活性化することも明らかにしました(図6、NO産生量は免疫活性を表します)。

清酒蔵の生酛から分離されたL. mesenteroidesの自己消化物は培養細胞を使った実験でメラニン生成を促すチロシナーゼ活性を抑制することが報告されており7)、今回の研究で分離されたL. mesenteroidesも今後化粧品などへの応用が期待されます。

図6 桜の花から分離した乳酸菌の免疫活性化能

(異なるアルファベットは統計的に有意差があることを表します)




さらにカボスの実から乳酸菌を分離し、Lactococcus lactisと同定しました(図7)。

図7 カボスの実から分離した乳酸菌

この乳酸菌(殺菌したもの)が免疫細胞を活性化することも明らかにしました(図8、NO産生量は免疫活性を表します)。

L. lactisはチーズなどの製造に多く使われている菌で、近年のヒトを使った研究ではL. lactisの株の中にはインフルエンザ様の症状をIFN-αを介した免疫反応で減少させる8)ものがあることがわかっています。

図8 カボスの実から分離した乳酸菌の免疫活性化能

(異なるアルファベットは統計的に有意差があることを表します)



これらの乳酸菌を摂れば、免疫の活性化が期待できることから、3密防止や手洗い、マスク、うがい、換気などの基本的な予防策はきちんとしたうえで、さらなるウィルスの予防の可能性を検討される方にはお勧めできると思います。


参考文献

1) Brayden, D. J., Jepson, M. A., & Baird, A. W. Keynote review: intestinal Peyer's patch M cells and oral vaccine targeting. Drug discovery today, 10(17), 1145–1157 (2005). https://doi.org/10.1016/S1359-6446(05)03536-1

2) Lehtoranta, L., Pitkäranta, A. & Korpela, R. Probiotics in respiratory virus infections. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 33, 1289–1302 (2014). https://doi.org/10.1007/s10096-014-2086-y

3) Hao Q, Dong BR, Wu T. Probiotics for preventing acute upper respiratory tract infections. Cochrane Database of Systematic Reviews, Issue 2. Art. No.: CD006895 (2015). DOI: 10.1002/14651858.CD006895.pub3. Accessed 12 April 2021.

4)新納仁他, Jpn Pharmacol Ther 40(2), 137-45 (2012)

5) Motonaga, C., Kondoh, M., Hayashi, A., Okamori, M., Kitamura, Y., Shimada, T. Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi, 56, 10, 541-544 (2009).

6) Hasegawa, T., Kanasugi, H., Hidaka, M., Yamamoto, T., Abe, S., & Yamaguchi, H. (1996). Effect of orally administered heat-killed Enterococcus Faecalis FK-23 preparation on neutropenia in dogs treated with cyclophosphamide. International journal of immunopharmacology, 18(2), 103–112. https://doi.org/10.1016/0192-0561(96)00001-x

7) Kondo, S., Takahashi, T., Yoshida, K., & Mizoguchi, H. (2012). Inhibitory effects of autolysate of Leuconostoc mesenteroides isolated from kimoto on melanogenesis. Journal of bioscience and bioengineering, 114(4), 424–428. https://doi.org/10.1016/j.jbiosc.2012.05.016

8) Sugimura, T., Takahashi, H., Jounai, K., Ohshio, K., Kanayama, M., Tazumi, K., . . . Yamamoto, N. (2015). Effects of oral intake of plasmacytoid dendritic cells-stimulative lactic acid bacterial strain on pathogenesis of influenza-like illness and immunological response to influenza virus. British Journal of Nutrition, 114(5), 727-733. doi:10.1017/S0007114515002408

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